犬のいる美術館

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『故郷』インスタレーション2011年

　不謹慎と罵られても恐れず云います。2011年私達にに襲いかかった悲劇は、これまで続いてきた社会経済のシステムだけではなく、文化、哲学を見直し、今までとは全く違う価値観の模索と新しい世界の実現をめざす契機になると私は固く信じていました。私だけでなく絶えず本質から目を塞いできた多くの方が、行き当たりばったりの歴史を否定しようと思ったに違いありません。

　しかし、どうでしょう。蓋を開ければあのような衝撃にあっても人は何も変わろうとしない。何が大切かを議論し、新しい価値観へと舵を切ろうとしない。日本人は急激な変化を恐れる民族だとか、忘却も生きる知恵と開き直っている場合ではないと思うのです。だって、もう奈落の底がはっきりと目に映ったではありませんか。もう、崖っぷちなのです。勿論、私自身も…。

　どんなに無関心を装っても今までの継続が衰退を意味する事はみんななんとなく感じていて、表では何も現さなくとも、人それぞれの内面では、はたしてこのままでいいのかという疑問が払拭できないのでいる。そんな中で、やっと少しずつ正しいベクトルに乗ろうとする勇気ある人が現れる一方、既存の価値観や現状に依存する人が激しいアレルギーでその行動を排除しようとしているのも事実です。

　私の周りも私自身もそうです。小心ものゆえ、外部からの圧力は勿論、自分自身の欲や弱さで対峙できず、その力で押しつぶされようとする時もあります。敵は自分自身の中に潜んでいます。ただ幸いな事に私には唯一表現する手段がある。表現の場にいると、嘘やごまかしはかたちとなって自分自身に厳しく跳ね返ってきます。周囲の寛容な協力に恵まれ、この茨の道に立たせて頂く幸せにひたすら感謝する次第です。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日下正彦